遺産相続は放置できない、遺産放棄や名義変更のやり方

「相続した遺産を放置するとどうなるの?」
「遺産放棄するにはどんな手続きが必要?」
といった疑問をお持ちの方に、「遺産を放置するとどうなるのか?」についてや放棄の方法、名義変更の手順などを解説していきます。

遺産を相続する予定があり、放棄や名義変更が必要かも…という方は必見です。

遺産相続手続きをしないで放置しているとどうなる?

まずは相続した遺産を何も手続きしないまま放置するとどうなるのかという疑問についてお答えしていきます。
遺産の種類や相続人のシチュエーションごとに見ていきましょう。

預金の場合

預金口座を持っている人が亡くなり連絡が銀行に入ると、その口座は凍結され入出金ができなくなります。
通常は相続が決定された後に所定の手続きを取ることで凍結は解除されるのですが、その手続きをしないままだといつまでも口座は凍結されたままになってしまいます。

2009年1月1日以降の取引から10年以上取引がないと「休眠預金」となり、口座に入っているお金は預金保険機構という認可法人へ移管されます。
移管されたお金は民間の公益活動の原資として使われますが、所定の手続きを取ると払い戻しをすることができます。

不動産の場合

不動産の相続登記手続きそのものには期限がありません。
つまり亡くなった方の名義のまま、何十年も放っておいても特に罰則などはなくいつでも手続きができるのです。

ですがそれだけ時間が経っている不動産では、相続人の範囲が大変広くなり、人数も何十人となってしまう場合があります。
いざ不動産を売却しようと思っても相続人を全て探し出し、全員に事情を説明し、同意を取らないと売却できなくなってしまいます。

ですので不動産の相続登記や分割といった手続きはそのまま放置せず、なるべく早めにすることをおすすめします。

相続人が未成年の場合

相続人が未成年の場合、遺産分割協議の内容を理解して協議書にサインをすることが難しい場合があります。

通常は親が親権者として未成年の相続人の代わりに遺産分割協議書に署名捺印します。
ただ親権者と未成年者の両者が相続人の場合、「利益相反」の関係となるため親権者は代理人になれません。
この場合は別に「特別代理人」を選任する請求を家庭裁判所に対して行い、代理人が未成年の相続人の代わりにサインをします。

特別代理人は弁護士や司法書士といった専門家だけでなく、叔父や叔母といった親族でも認められます。

相続人が認知症の場合

相続人の中で認知症により適切な判断ができない方がいる場合は、家庭裁判所に「成年後見人」の選任を申立てる必要があります。

この時選ばれた成年後見人は、認知症が回復するかその方が亡くなるまで代えたり解任したりすることができません。
そのため十分に時間をかけて選ぶ必要があり、通常は人選に半年から一年前後かかることがほとんどです。

相続人が行方不明

相続人と連絡が取れない、どこにいるか誰も分からないという場合があると思います。
その時は、とにかくあらゆる手を使って居場所を探し出して連絡を取る以外にありません。

役所に出向き戸籍や住民票の住所から確認したり、探偵や調査会社を使うこともあります。
それでもなお居場所が分からないという時は、家庭裁判所に申し立てて「失踪宣告」を出してもらう場合もあります。

ただし失踪宣告を出す条件として法律に「その生死が7年間明らかでないとき(普通失踪)」とありますので、大幅に時間を要する可能性があります。

相続人がいない場合(子供がいない夫婦が他界)

子供のいない夫婦の両方が他界した場合、夫婦の兄弟や甥、姪が共同相続人となるケースがあります。
特に親しく行き来しているという間柄以外は、夫婦にどんな種類の資産がどの位あったのかという調査が難しく、新たに相続人が発生することになると手続きがさらに難しくなっていきます。

遺産相続を放棄したい場合はどうしたらいい?

自分が相続人となったけれど様々な事情で遺産を放棄したいと考えた時、どのように手続きをすればいいのか解説していきます。

親族全員が放棄した場合

遺産よりも借金などの債務の方が多いケースや、相続したくない不動産のみの遺産の時、相続人となる親族全員が相続を放棄する場合があります。

通常相続する人がいない遺産は家庭裁判所に選任された「相続財産管理人」によって管理されます。
必ず利害関係人によって申立を行い、財産を売却・管理する費用の他に管理人の報酬も準備しなければいけません。

どんな遺産か、どの位の金額かによって異なりますが、数十万円~100万円程度の費用が必要となります。

放棄しても管理責任は残る

たとえ遺産を放棄したことを決めても、所定の手続きを経て相続財産管理人へ引き継ぐまでは遺産を管理する責任が残るのでご注意ください。

遺産を相続する方法には、すべての相続を放棄する「相続放棄」のほかに、単純承認や限定承認という方法があります。

それぞれの相続方法についてご説明していきます。

◆単純承認

単純承認とは亡くなった方(被相続人)のプラスの遺産はもちろん、借金といった債務もすべて相続する方法です。
特に何も手続きをしない限り自動的に単純承認とみなされます。

相続放棄の手続きは通常3か月以内と決められており、その期限を過ぎると単純承認となってしまいますので、相続するか放棄するか迷っている方はなるべく早い決断が求められます。

◆限定承認

限定承認とはプラスの財産とマイナスの債務を比較して、プラスの財産の範囲内で借金や債務も相続するという方法になります。
限定承認で相続するには法定相続人全員の名前で家庭裁判所に申請が必要です。

手続きの期限は3か月以内で、自分達だけでも手続きできますが、司法書士や弁護士に相談した方がスムーズに進む場合があります。

◆相続放棄

プラスの遺産よりも借金の金額がはるかに多い場合は、すべての相続を放棄する「相続放棄」が選ばれます。
こちらも期限は相続のことを知ってから3か月以内で、期限内に家庭裁判所に申述します。

ただし相続放棄は相続人全員の同意が必要なく、単独で手続きすることができます。

山林、農地を相続放棄したい時の手続き

不動産の相続放棄で多いのが、使い道に困る山林や簡単に売却できない農地などです。
こちらでは相続放棄のメリット・デメリットや注意点、相続放棄以外の土地の手放し方を見ていきましょう。

手続きのメリット・デメリット

山林や農地を相続放棄するメリットは、固定資産税や相続税といった税金を納付する必要がないということです。

逆にデメリットとしては、山林や農地といった不動産だけを選んで相続放棄ができないため、そのほかの現金や預金といった遺産も相続放棄せざるを得ないということになります。

土地の相続放棄の注意点

土地を相続放棄する際の注意点として、親族間のトラブルの原因となることもあるので気を付けましょう。

自分が相続放棄したとしてもその相続権は消滅するというものではなく、亡くなった方の親や兄弟、甥姪など後順位の相続人に引き継がれることになります。
もし相続放棄した土地に利用価値がなく管理費や費用ばかりがかかる場合、親族間での不仲のきっかけになることも。

相続放棄をする際は後順位の人に自分の気持ちを伝えたうえで手続きをしましょう。

放棄しても管理責任は残る

先ほどもご説明した通り、たとえ相続を放棄したとしても他の相続人が土地の管理をできるようになるまでは管理責任が残ります。
つまり相続放棄したらそれでおしまいという訳ではなく、次の相続人や相続財産管理人が管理できる体制が整うまでは、引き続きその不動産を管理しなければならないのです。

相続放棄以外で土地を手放す方法

相続放棄以外の手段で土地を手放す方法がいくつかあります。

◆売却

山林や農地が売却できれば現金が手に入り分割しやすくなります。
山林の売却に関しては、年を追うごとに件数が増加している現状があります。

ただ宅地開発の予定があるエリアや林道近くの山林以外はほとんど買い手がつかないことも。
山林は境界線があいまいな場所も多く、それも売却を難しくしている原因の一つです。

農地を売却する際は、買い手側に下記のような条件が満たされないと売却できません。

●農地の全てを活用すること
●法人の場合は主たる事業が農業であること
●必要な農作業に常時従事できること
● 一定の面積を農地として使うこと
●周辺の農地に迷惑をかけないこと

また農地を売約する際は利子税プラスそれまで猶予されていた相続税を納付しなければなりませんので注意しましょう。

◆寄付

土地を個人や法人に寄付するという方法もあります。

個人への寄付の場合は、相手に贈与税がかかることがあり、所有権移転に伴う登記費用や登録免許税、司法書士報酬などが合計で20~30万円前後必要です。

山林の寄付は個人や法人だけでなく町内会や自治体も受け入れ可能です。
ただし町内会などは「認可緑地団体」という法人格がある団体にしか寄付ができませんのでご注意ください。

◆売却・寄付が難しい売却したくても売れない土地の場合

売却できず寄付の受け入れも難しい土地の場合、ただでもいいから譲渡するという方法があります。
法律上は「贈与」ということになり贈与税が発生します。

贈与の場合は不動産業者が仲介をしてくれませんので、後のトラブルが起きないよう専門家を間に入れて手続きを進めるのが良いでしょう。

田舎の土地と一軒家・空き家の相続放棄

最近問題になっているのは子供が地元を離れてしまい、残された田舎の親の土地や家が相続対象となるケースです。
メンテナンスしないままに空き家を放置しておくと、建物が倒壊したりして近隣に迷惑をかける場合があります。

この時も相続放棄を選択することが可能です。

手続きのメリット・デメリット

田舎の土地や家を相続放棄するメリットは、固定資産税がかからず管理に費用が必要なくなるということです。
デメリットとしては、他の遺産もすべて放棄しなければならないことに尽きます。

相続の名義変更したい場合

不動産を相続し、名義を被相続人から相続人に変更する際の手続きや必要書類、注意点について見ていきます。

相続の名義変更や必要な手続きの流れ

不動産の相続登記に関しては期限がありませんが、相続することが分かった時点でなるべく早めに手続きを開始しましょう。
名義変更は次のような流れで進めます。

1. 相続物件の特定
2. 遺産分割協議書の作成
3. 必要書類を準備
4. 法務局で相続登記を申請
5. 登記が完了(1週間~10日)
6. 法務局で書類を受け取る

法務局に相続登記を申請する際に必要な書類はこちらです。

◆被相続人の戸籍謄本(出生から死亡まで)
◆相続人の戸籍謄本
◆相続人の住民票
◆相続人の印鑑証明書
◆遺産分割協議書
◆不動産の固定資産税評価委証明書

名義変更するときの注意点

不動産を相続により名義変更する際にはいくつかの注意点があります。

注意点1:土地相続の手続き・名義変更

土地を相続した際の手続きに際しては、遺言書の種類に応じて手順が異なりますので注意しましょう。

遺言書には公正証書遺言・自筆証書遺言・秘密証書遺言の3種類があり、公正証書遺言以外の2つは家庭裁判所での「検認」が必要です。
また相続人に未成年者や認知症の方がいる場合は、特別代理人や成年後見人を選任しなければなりません。

さらに名義変更した土地の権利書は、登記後3か月を過ぎると窓口で受取ができなくなりますので、遠方で取りに行けないという方は返信用の封筒や切手を準備して郵送で受取りができるよう手配しましょう。

注意点2:家や建物を複数で相続する場合

マンションや一戸建てを複数の相続人で相続した場合、分割の必要がないのでスムーズに手続きが進むように思われますが、いざ売却したくなった時にトラブルになる恐れがあります。

共同名義の不動産では、基本的に全員の同意がないと売却できません。
また売却価格や依頼する業者、誰が主となって動くかなどで意見が対立し、話がまとまらないことが考えられます。

注意点3:相続税が軽くなる控除と特例

こちらでは遺産を相続した際の相続税が減免される控除や特例についてご紹介していきます。
下の表は相続税に関する控除・特例の主なものです。

◆配偶者控除

控除・特例の種類配偶者控除
対象となる人被相続人の配偶者
内容1億6000万円もしくは法定相続分の高い方までの控除を受けられる

◆未成年者控除

控除・特例の種類未成年者控除
対象となる人満20歳未満の法定相続人
内容6万円×20-当時の年齢 で控除額を計算

◆障がい者控除

控除・特例の種類障がい者控除
対象となる人障がいがある法定相続人
内容一般障がい者:85歳までの年数×10万円
特別障がい者:85歳までの年数×20万円

◆小規模宅地等の特例

控除・特例の種類小規模宅地等の特例
対象となる人条件に当てはまる不動産
内容土地の評価額の最大80%を減額

基本的に基礎控除とそれ以外の控除・特例を併用することはできません。
また配偶者控除や小規模宅地等の特例に関しては、相続税の支払いが0円でも申告書の提出が必要となるケースがあります。

生前贈与と相続の違い

相続と似た意味の制度で「生前贈与」がありますが、生前贈与は財産を持っている人が生きているうちに贈るというものです。
亡くなってから財産を引き継ぐ相続とは異なりますので、それぞれを分けて考えましょう。

生前贈与のメリット・デメリット

生前贈与のメリット

生前贈与のメリットには次のようなものがあります。

●いつでもだれでもできる
●財産を贈る相手を自由に選べる
●感謝の気持ちを表せる
●上限(暦年贈与:110万円・相続時精算課税制度:2,500万円)以内なら贈与税がかからない
●贈る相手や贈与の目的により贈与税が減免される

生前贈与のデメリット

一方で生前贈与のデメリットはこちらです。

●贈与税がかかる
●不動産の贈与には諸経費(登記手数料・登録免許税・不動産取得税)が必要になる
●相続よりも税率が高い

生前贈与の諸経費

特に不動産を生前贈与した際には手続きに必要な書類の作成や代行に関して、司法書士や弁護士、税理士に支払う諸経費が必要です。
不動産の金額や種類によって異なりますが登記に約5万円、贈与税やその他の税金の申告には5万~10万円ほどの経費がかかることを覚えておきましょう。

生前贈与を行う際の贈与税を減らす方法

生前贈与を行う際に、贈与税が控除されたり減免される制度があります。
場合によっては無税で贈与が可能になりますので、生前贈与を希望する方は条件や内容についてよく調べておきましょう。

◆配偶者控除

控除や減免配偶者控除
条件・対象者配偶者から贈与された場合
(婚姻期間20年以上など)
内容住居用の不動産・不動産の購入資金の贈与
上限2000万円の控除が受けられる

◆相続時精算課税制度

控除や減免相続時精算課税制度
条件・対象者60歳以上の親または祖父母から20歳以上に対する贈与
内容2500万円まで一位的に無税で贈与が可能
(ただし死亡時に相続税の対象となる)

◆住宅取得資金の贈与

控除や減免住宅取得資金の贈与
条件・対象者親や祖父母から住宅購入資金を贈与された場
内容住宅新築時の契約締結日や住宅の種類、消費税の税額に応じた控除が受けられる

◆教育資金の贈与

控除や減免教育資金の贈与
条件・対象者30未満の子供に対する教育資金を贈与された場合
内容子供一人当たり1,500万円以下であれば非課税になる

◆子育て資金の贈与

控除や減免子育て資金の贈与
条件・対象者親や祖父母から贈与を受けた場合
内容20~50歳未満を対象に、利用期間内であれば非課税になる

贈与税の申告と納税

贈与の金額が110万円を超えると、贈与金額から110万円を差し引いた金額を課税対象額として贈与税を計算します。

贈与税を申告する際の納税金額は下の計算式で算出します。
贈与税納税金額=課税対象額×税率ー控除額

贈与税以外の税金もかかる

特に不動産を贈与した場合には、贈与税以外の税金も納付しなければなりません。

税金の種類計算方法
登録免許税不動産の固定資産評価額の2~3%
不動産取得税不動産の固定資産税評価額の3%

相続による登記の場合は登録免許税が0.4%、不動産取得税はかかりませんので、生前贈与の方が税金は高いことが分かります。

まとめ

遺産相続を放置すると預金は預金保険機構へ移管され、不動産は相続人が膨れ上がり、いざ手続きしようと思うと大変な労力が必要となります。
決してそのままにすることなく必ず相続の手続きが必要ですが、負の遺産の方が多かったり、活用できない不動産の場合は相続放棄も選択肢に入れましょう。

相続放棄をすると相続税がかからないというメリットがある一方で、他の遺産も放棄しなければならないといったデメリットがあります。
特に農地や山林、田舎の不動産は買い手がつかないことが考えられますので、寄付や譲渡も選択肢に入れましょう。

生きている間に贈る相手や使い道を決められる生前贈与もおすすめです。
贈与税が減免される控除などを上手に活用して、お得にあなたの財産を贈りましょう。

この記事を書いた人

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野々山(営業担当)